10円玉、消えた
「そりゃよかった。お母さんは何て言ってる?」

「もちろんよかったって言ってるよ」

「リュウちゃんには何か言ったかい?」

「うん、まあ…もう心配するなって」

黒部はニコッと微笑んだ。
「じゃあその通りだ。お母さんが言うんなら間違いないさ」

「でも親父には腹立つよ。俺と母さんを大変な思いにさせてさ」

「リュウちゃん、腹立てたとこで何か状況がよくなるかい?」

「…」

「ヤケになるなよ、な。ヤケになってもしグレたりしたら、お母さんが悲しむだけだぜ」

「…」

「今回のことで一番落胆してるのはお母さんなんだ。だからヤケになって、それに追い討ちをかけるようなこと、絶対にしちゃダメだ。男として最低だぜ」

竜太郎は俯いてすっかり黙り込んでしまった。

黒部は言い続ける。
「だからさ、そんなこと考えるより何か一つに情熱を傾けなよ。漫画でもいいし、別のものが見つかればそれでもいいし」

竜太郎は黒部の言葉一つ一つを痛いほど噛み締めていた。



そうだ、そうなんだ。
これでヤケになったら、俺はあんなダメ親父に振り回されたことになる。
そうなりゃ俺の負けだ。
ちくしょう、あんな親父には負けたくない。



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