10円玉、消えた
やがて『らあめん堂』に助っ人がやって来た。
杉田勝正という29歳、この道10年になるラーメン職人だ。

山村が助っ人に差し出すだけあって、杉田は真面目で温厚な男だった。
幸子は彼を一目見て、信頼できる人だと思った。
そして竜太郎も彼のことをすぐ気に入り、“カッちゃん”と呼んで親しんだ。

また杉田はなかなかのアイディアマンである。
『らあめん堂』のシンプルなラーメンメニューの本質はそのままにして、醤油と味噌のスープをそれぞれ濃いめ・普通・薄めの3種類に増やした。
またチャーハン・カレーライス・オムライスといったご飯物も加え、トータルのメニューを一気に豊富にした。

おかげで子供のいる一般家庭からの出前注文や、家族連れの客が激増し、売上が順調に伸びていった。

源太郎が作るラーメンの味とは違うものの、杉田の腕にはやはり確かなものがあり、この“新生・らあめん堂”の味も好評。
客の舌を裏切らないものであった。

店は杉田が来て3ヶ月で、彼にしっかりと給料が支払えるまでに回復。
そうした上でも、低迷期より利益は上昇。

まさに杉田は、ダメになりかけた『らあめん堂』の助っ人、いや救世主となったのである。



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