10円玉、消えた
竜太郎は薫を家に連れて来た。
もちろん幸子と杉田は手放しで大歓迎。
薫が想像してた以上に可愛い娘だったため、幸子はかなり驚いた様子だ。

竜太郎と薫はカウンター席に並んで腰掛ける。
夕方4時半、幸い店内には客が一人もいなかった。
そのため幸子も杉田も、ゆっくりと二人の相手をすることができた。

「薫ちゃん、モテそうなんだから、ウチの息子なんかよりもっとカッコいいのを選んだ方がいいんじゃない?」
と幸子が冗談混じりに言う。

「いえ、そんな、私なんか」
薫は照れながら言葉を返す。

彼女のその素直さに、幸子は益々好感を持った。

「ウチの息子なんかって…母さん、あのな」
と不服そうな竜太郎。

そこに杉田が加わる。
「そうっすよ、女将さん。リュウちゃんだって目鼻立ちクッキリのハンサムなんすから」

「カッちゃんもそう思う?」
竜太郎が聞く。

「もちろん。まあ俺よりは少し落ちるけどね」
小さな目をした“寅さん風”顔立ちの杉田が言った。

そこで一同は大爆笑。
もちろん幸子も声を出して笑っていた。

こんなに笑った母さんを見るのは、ひょっとして生まれて初めてかもしれないな、と竜太郎は思った。



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