10円玉、消えた
薫の家は駅が6つ離れたところにある。
6つとは言っても、駅と駅の間隔が短い小さなローカル線で、距離にするとさほどのことはない。

竜太郎は薫を自転車の後ろに乗せて行こうとも思ったが、辺りがすっかり暗くなっていたため電車の方を選んだ。
駅を降りれば薫の家は徒歩5分ほどだ。



空席があるものの、二人はドア付近に向かい合って立っていた。
ガタンゴトンとお馴染みの音を立てて電車は走る。

相変わらず速度が遅い電車だな、と竜太郎は感じる。
しかしそのノロさはいまの二人にとって有り難いものである。

薫は先ほどから“あること”が気になっていた。
そしてそれを竜太郎に言うか言うまいか迷っている。

だがやはり腹の中に溜めないことにした。
彼氏にヘンな遠慮をしてもしょうがないと思ったからである。

「ねえ竜太郎、あの杉田さんって人いつからいるの?」

さっきまで音楽の話しをしていただけに、この突然の薫の質問に竜太郎はやや驚いた。

「なんだよ急に」

「ねえ、いつから?」
と薫は催促する。

彼女が何を言いたいのかわからぬまま竜太郎は答えた。
「去年の4月から」

「じゃ一年はいるんだ…」



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