10円玉、消えた
薫が言葉に詰まったため、今度は竜太郎が話しを促す。
「なんだよ一体。カッちゃんのことがなんか引っかかるのか?」

「…うん、少し。でも竜太郎はあの人のこと気に入ってるよね」

「気に入ってるさ。真面目だし優しいし。カッちゃんが来てからいいことばっかだし。薫はダメなのか?カッちゃんみたいな人」

「ダメって言うか、ちょっと引っかかるんだよね」

「だから何がだよ」

いざこうして口に出してはみたが、やはりなかなかストレートには言い出せない薫であった。
だがもう後には引けない。

薫は意を決して言う。
「あの杉田って人と竜太郎のお母さん、なんかあやしいんだよね」

「あやしい?」
竜太郎が即座に尋ねた。

「つまり男女の関係ってこと」

「えぇっ!だ、だってカッちゃんの方が10歳以上も下なんだぜ」

それまで比較的小声で話していたが、さすがにこのときばかりは竜太郎の声がやや大きくなる。
慌てて二人は車中をキョロキョロと見回した。
しかし誰も自分たちのことを見ていないとわかり、二人はホッとする。

竜太郎は声のトーンを再び落として言う。
「だからさ、そんなトシが離れてるんだ。絶対あり得ないよ」



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