戦乙女と紅~東方同盟の章~
…乙女は首を横に振った。

「悪かった。ただの独り言だ、忘れてくれ」

気持ちを切り替えるように一つ大きく息を吐いて、乙女は表情を引き締めた。

「後日、獅子の国に向かおうと思う」

「獅子王のところへか?」

俺の言葉に乙女は頷いた。

「私の事を気に入らないのは構わない。しかし同盟を結ぶ以上、他国とも連携をとり、足並みを揃える必要があると思うのだ。その事をもう一度獅子王と話し合いたい。どうしてもというのならば、彼に同盟の主導権を握らせてもいい」

「…それは危険だ」

あの男は、ただの王ではない。

胸の内に、何かどす黒いものを感じる。

野心家で、傲慢で…暴君という肩書きさえ似合いそうである。

奴に同盟の手綱を握らせるのは、この地を真っ二つに分けた大戦に繋がる恐れすらある。

「わかっている。その為に獅子の国へ向かうのだ。何とか説得してみる」

真っ直ぐな眼差しで俺を見る乙女。

『私を信じろ』と。

その瞳が訴えていた。

「わかった…どうせお前は言い出したら聞かんからな」

「助かる。ついでに、獅子の国には私一人で行く。妙な警戒心を抱かせたくない」

乙女はまたも無謀な事を言い出した。

「何を言い出すかと思えば…そのような事は容認できぬ」

「別に戦に行くのではない。会談をするだけだ」

「あの男が、一人でノコノコやってきたお前に対してそれで済ませると思うか?」

お前は女なのだぞ、と。

俺は乙女をたしなめるが。

「女は女でも、戦乙女だ。そんじょそこらの男になど遅れは取らぬよ」

乙女は軽やかに笑って見せた。

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