戦乙女と紅~東方同盟の章~

乙女

獅子の国は、女神国から北に半日ほど向かった先にある、山沿いの大きな国だ。

主な産業は、鉄鋼。

鉱山を持っている事もあり、武器や鎧、農民が使う鍬や鋤、果ては鍋やフォークに至るまで、東方の鉄製品の殆どはこの国が賄っている。

当然国の規模も女神国とは桁違いで、軍事力もそれに比例する。

八十万という兵数は、この地の軍事力としてもかなりの上位に位置するのではなかろうか。


私は早速その日、獅子王との会談の為に獅子の国へと向かっていた。

…獅子の国の砦門前まで馬を走らせると。

「お待ちしておりました、女神国女王陛下」

既に連絡が届いていた事もあり、獅子の国の騎士が出迎えに来ていた。

王宮までの足として、馬車まで準備している徹底振りだ。

「獅子王は王宮にてお待ちです。早速ご案内いたします。どうぞこちらへ」

馬車の中へとすすめられる。

馬車は静かに走り始めた。

御者も馬もよく訓練されている。

不快な揺れなど殆ど感じさせなかった。

…馬車の窓から街の様子を見る。

流石は鉄鋼で潤っている国だ。

民衆の身なりも、女神国より一段階上といった印象を受ける。

馬車の中で騎士に振る舞われた紅茶は私の好きな銘柄の茶葉で、とても美味しく感じた。

その紅茶を飲み終える頃。

「見えてきました。あれが獅子の国の王宮です」

騎士が窓の外を見ながら言う。

…そこから見えるのは、最早王宮というよりは要塞だった。

女神国の王宮も改装を終えてかなり広くなったが、獅子の国の王宮はそれを遥かに上回る。

本来の王城のそばに隣接して幾つもの小塔が建てられ、見ようによっては無計画に建築されているようにも感じられる。

…王宮の中には、絢爛豪華にする事で自国の権力を誇示するものもあれば、敵に攻め込まれた時に簡単に玉座にたどり着けぬように、わざと複雑な構造になっているものもある。

獅子の国の王宮は恐らく後者なのだろう。





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