戦乙女と紅~東方同盟の章~
流石に小塔の上の階は見張りが少なくなってきた。

ここまで潜入できる者がいるとは思っていなかったのかもしれない。

それでも気を抜く事なく、警戒を緩める事なく先へと進む。

…陰鬱な空気が漂う小塔の中。

明るく煌びやかな王宮の中にあって、このような空間が存在するとは。

まるで監獄のような雰囲気だった。

獅子王の趣味が窺える。

こんな薄暗い場所に乙女を閉じ込めて…可憐な姫君をさらって勇者が挑んでくるのを待つ、大魔王様気取りか。

となると俺がその勇者で、乙女が姫君役…。

おっと、乙女は元々姫君、いや女王だったか。

間抜けな思考を中断して、俺は歩みを止めた。

…そこここから、小さなうめき声が聞こえたからだ。

殆どは不明瞭な獣の鳴き声の様な声だったが、時折小さく『出してくれ』とか『せめて鎖は外してくれ』『肩が外れそうだ』などという声が混じる。

どうやら乙女以外にも、何人か獅子王に囚われの身になっている者がいるらしい。

大方この国に潜入してきた密偵や、戦で敗北した国の捕虜だったりするのだろう。

時々獅子王の手で、嗜虐趣味を満喫する為の憐れな玩具にされているのか。

もし捕まれば、俺もその玩具の仲間入りだ。

万が一気に入られでもしたら、毎日のように構ってもらえるかもしれない。

ぞっとしない話だ。

…囚われの身の連中に申し訳ないとは思いつつ。俺は先へと進んだ。

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