戦乙女と紅~東方同盟の章~
「何という事を…獅子王…」

ギリ、と。

誰かの歯軋りの音。

私は尚も何もない中空に視線をさ迷わせる。

目は開いている。

だが、見ているようで見ていない。

呼吸はしている。

だが、生きているようで生きていない。

生ける屍。

子供を恐れさせる作り話の中に、そんな怪物が登場するが。

…今の私は、まさにその生ける屍かもしれない。

「水を浴びせた上にこんな冷え切った部屋で放置とは…非道な…!!」

誰かが私の体を抱きしめる。

赤い外套で、冷え切った体をくるんでくれる。

既に震える事さえ出来なくなった凍りついたような体に、幾分かの温もりが戻ってくる。

だが寒い。

体よりも、心の方が寒かった。

…私に優しくしないでくれ。

私を助けないでくれ。

私は責められるべき人間なのだ。

多くの者を殺し、多くの者を死地に導き、多くの者から大切な人を奪った。

誰よりも多くの命を奪った大罪人。

私は責められ、罵られ、忌み嫌われるべき存在なのだ。








私に、優しくしないでくれ…。




< 48 / 79 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop