戦乙女と紅~東方同盟の章~

乙女

私は、紅に背中を押されて前に出た。

「……」

多くの兵が、私を見ている。

今まで多くの敵兵を斬り、自軍の兵さえも犠牲にした私を。

…まともに見れない。

胸を張れない。

兵士一人一人の瞳が怖かった。

でも…。

私は顔を上げる。

私が信じた理想は…私が追い求める理想は、きっと皆を幸せにする。

そう信じているから。

「聞いてくれ」

私は言った。

「私は…これからも犠牲者を出す。敵兵を斬り、自軍の兵士を鼓舞して戦いに導く。獅子王の言う通りだ…戦いに身を置く者として、私の言う事は甘っちょろい戯言だ」

…兵士達は、黙って私の言葉を聞いている。

「だが…私の先人達は、理想を追い求めてこの世界を創った。理想を追い求めた者達が、世界を変えてきたと思うのだ。夢物語だ、夢想家だと笑われ、罵られながら、世界をより良い方向に導いてきたのだと思う」

拳を、ぎゅっと握り締める。

「ここからはそなた達の判断だ。私の綺麗事に嫌気が差したのならば国を去ってくれて構わぬ。軍を除隊しても、何の咎めもせぬ。私にそこまでの権利はないから…」

もしかしたら、多くの者が私から離れていくかもしれない。

そう思うと、また涙が浮かんできた。


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