戦乙女と紅~東方同盟の章~
ザクリと。

肉に刃が食い込む感触。

しかし。

「小賢しい」

獅子王は歯噛みした。

前進したのは正解だった。

剣というのは切っ先よりも鍔元(つばもと。剣の根元の事)の方が切れ味が劣る。

鍔元で受け止めれば、両断は免れられるのだ。

「離れろ!!」

剣で俺を押し返す獅子王。

「ぐぅっ…!」

俺はよろめいた。

肩口から血がこぼれる。

成程…大口を叩くだけあって強い。

「口は達者だが武術の腕はイマイチだな、紅?」

獅子王がニヤリと笑う。

…奴はまた、あの妙な動きで間合いを詰めてくる。

あの動きは見えない。

ならば…。

俺は両手を広げ、懐をがら空きにした。

心臓を貫いてくれと言わんばかりの姿だ。

「…何の真似だ。もう降参か?」

「遠慮するな。心臓を刺し貫いて来い」

俺は傷の痛みに顔を歪めながらも笑った。

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