戦乙女と紅~東方同盟の章~
『西の様子を見てきて欲しい』

乙女にそう命じられ、俺が単身女神国を旅立ってから一月が経過しようとしていた。

西は酷い有様だ。

この一月で見たものは、一つの国、五つの村、四つの街の壊滅。

五つの村と四つの街にいたっては、戦ではなく夜盗どもの略奪による壊滅だった。

西方諸国は乱れきっている。

こうして馬で旅をする俺でさえ、幾度となく盗賊や敗国の残党の襲撃を受けた。

勝者のみが肥え太り、敗者は泥水を啜って生きる。

戦の常ではあるが、この西方ではその格差が大きいように思えた。

…乙女のように、敗者にまで情けをかける方が珍しいのだ。

騎士道などというが、極限にまで追い詰められて、そのような精神論を口に出来る者はそうはいない。

自由騎士だった頃、俺にとってもこの光景は日常だった。

だが乙女の考え方に賛同した今となっては、流石に心痛むものがある。

…また焼き尽くされた村を見つけた。

黒焦げになった建物。

最早男か女かも判別できぬ、白骨と化した遺体。

…焼き尽くし、殺し尽くし、滅ぼし尽くす。

この戦乱の果てに、西方でどの国が覇者となるのかはわからない。

だがその覇者が、やがては我が女神国のある東方にまで攻め入ってくるのは容易に想像できた。

最後の一国になるまで続く、大規模な殺戮劇。

その間、阿鼻叫喚の地獄絵図の主人公となるのは、力なき無辜の民であるのだろう。

< 8 / 79 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop