甘い唇は何を囁くか
遼子を横たわらせて額を撫でると、言葉を続けた。

「その頃の俺は、とくに何の目的もなく生きていた。余りある金と権力に甘えて、自由な生活を送っていた。けれど、そんなある日、俺のベッドの傍に1人の女が現れた。」

遼子は、複雑げに眉を寄せている。

シスカは微笑して言った。

「女は銀の髪と碧眼の見たこともないような美しい姿をしていた。俺はおぞましさを感じ、言った。魔物か、と。女は身じろいで、だが壮絶な笑みを浮かべて答えた。自分はヴァンパイア、今お前を仲間に変えたのだーと。」

そして、その瞳から一筋の涙を流した。

苦しげに、悲しげにー。

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