甘い唇は何を囁くか
女たちの目は、もう夢見心地になっている。

これこそヴァンパイアの力…。

遼子にだけ、何故か通じない魔力…。

ごくりと、空気を飲み込んだ。

待てない…欲しい…。

喉が…。

「あたしたち…」

女が、艶かしい唇を動かした。

「お兄さんになら、どうされてもイイよ…。」

シスカは嘲笑を浮かべ、手を差し出した。

「…なら、来い。この場で抱いてやる。」

頭の中にあるのは、女の血…身体…。

遼子…。

「あーあ、いっけないんだ!」

シスカはぴくりと肩を揺らして、声の方を身向いた。

外灯の明かりの下に男がいる。

シスカは、それが誰なのかすぐに分かった。

こちらを見て、にんまりと悪戯げな笑みを浮かべている。

女たちは、まだ正気には戻っていないのか、振り返りもしない。

だから、シスカはゆっくりと口を開いた。

「何だ…何故ここにいる。」

男は、品のない口笛を鳴らして言った。

「お兄さんになら、何されてもイイ、なんて簡単に言わせられるんだなーあんた。」

シスカは、はっきりとした怒りを感じていた。

食事を邪魔されたことー。

それに…。

「近付くな…、近付くとお前を殺す。」

熱く滾る欲望…、これは…殺意だ。

「ひぇー、おっかないねぇ。遼子がいるのに浮気しようとしてる方がいけないんだろー?」

そう言うと紅い目を細めて笑った。

何故だー、この前もそうだった。

この男は、なぜ怖がらない…?

紅い目の男は、怯えるそぶりもなく女たちの隣まで近付いてきた。

「あー、もー夢ん中だね。」

女の1人の髪を後頭部から掴み、顔を上げさせると、やおら唇を塞いだ。

艶目かしい口づけだが、まるで愛情は感じず、まるでーーーシスカと同じ…。

!!

いや、まさかー。

バンジェスも言っていたではないか。

我々は、基本的に不可侵。

本能から、近付くことがないー。

だがーまさか…?

紅い目の男は、唇を離すと、シスカを見やりした舐めずりして囁いた。

「こーんな目立つ場所で晩飯は、よくないんじゃね?なぁ、お前も此処じゃやだよな?」



「おーい、おっさーん。おっさんまで夢見心地になってどーすんだよ。」

そう言って、ケラケラと笑い、女の腰を抱き寄せた。

「ま、いーか…。こんな時間だし、人もいないし…?んじゃ。」

いただきます、そう続けると紅い目の男は…女の首をペロリと舐めた。
< 114 / 280 >

この作品をシェア

pagetop