甘い唇は何を囁くか
シスカの出て行った後の部屋の中は、何とも言えない寂しさに包まれていた。

熱くなった身体は、まだ火照ったままだし、シスカの香りがまだ残っている。

それだけで、到底眠れそうになんかない。

心当たりがある―って言ったけど、どんな心当たりなんだろうか。

昔の・・・ヴァンパイアの彼女とかだったらどうしよう。

いるよね、女の人も・・・。

だってシスカを人間からヴァンパイアに変えたのも、女の人だって言ってたもんね。

イヤだな・・・。

私ったらもう、嫉妬してる。

ベッドの中で右往左往しながら、ひとりで悶々としていたって仕方がないと思う。

シスカは・・・きっと、ひとりで何とかしようと考えてるんだよね。

それは、違うような気がする。

だって、これは二人の問題でしょ・・・?

面と向かっては言えなかった言葉が、今更頭の中に浮かんでくる。

もう、誰のことも見ないで欲しい―。

それって独占欲だよね・・・。

シスカが、ヴァンパイアなら・・・それが本当なら、私を食べない限り別の誰かを食べるんだろう。

私にしたみたいな息が出来なくなるくらいのキスをして、身体を触って・・・愛してるとか言うんだろうか・・・。

「はぁ・・・。」

遼子はため息を零して、身体を起こした。

ご飯を食べるみたいに、それが生きる糧なんだから仕方のないことなのかもしれない。

けど―イヤだ。

私にしか、愛してるって言わないで・・・。

私にしか、あんなキスしないで・・・。

どんなに言っても、私はもう少ししたら日本に帰らないといけないわけだし
日本と外国ってだけでも遠すぎる恋愛になりそうな予感があるのに、これ以上不安になる要素は残したくない。

残したくない・・・けど、死ぬかもしれないって分かっててエッチすることも・・・。

「できないよ・・・。」

ベッドから起き上がり、バルコニーへ出る。

まだ、月は上の方だ。

何時だろう、そう思ったけれど時計を見るのも煩わしくて、さっきシスカを見つけた街頭の下に視線を移した。

いるはずがない。

分かってるけど、もうその姿を求めてる。

眠れるわけがない。

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