甘い唇は何を囁くか
強張った頬に触れるとその柔らかな膨らみに、
眼に見えて明らかな欲情がこみ上げて来るのが分かった。

どういうことだ―?

召使である、その女の眼は周囲の同僚たちの目を気にすることもなく
シスカの射るような男の眼差しに上せてしまったようになっている。

これは…何だ?

シスカは心の中で再び自問した。

身体の中の雄の部分が叫んでいる。

女が欲しい。

その肉を喰らいたい―。

女の軟らかな乳房を…果実のような紅い実を喰いたい。

誰でも良い―。

その白くなまめかしい首筋を指先でなぞる。

女の身体はびくりとはねた。

「シスカ…さま…。」

弱弱しく熱を帯びた声で呟く。

流れるその血潮が指の腹に感じられる。

シスカは深く、女の耳元で息を吐いた。

身体が震える。

どういうことだ―。

身の内に奔る困惑と言い知れぬ恐怖、それ以上の欲情がシスカの頭の中を占めている。

抗いようのない―本能が…。

スンと鼻先で女の首筋をつついた。

「や…っ。」

周囲に居る数人の召使たちが息を詰めて、シスカとその女を見ているのが分かった。

上気した女たちから漂う甘い香りが強くなる。

震える女の肩…それを強く抱き、シスカは女の唇を塞いだ。
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