甘い唇は何を囁くか
怒っている遼子を見つめていると、それなのに妙に興奮してくる自分がいる。

どうしてだろうか。

怒っているのも、泣いているのも、笑っているのも、困っているのも、全てが愛しい。

思わず遼子を抱きしめてシスカはその髪に頬を寄せた。

「離してよっ!」

「・・・イヤだ。」

そう答えて、少しだけ腕を緩めた。

顔を上げたその瞬間、柔らかそうな唇に視線を落とす。

まるで、もうヴァンパイアのようだな。

そうして、怒っている唇の両端に自分と同じ牙が見えるようだ。

そして、有無を言わさず唇を塞いだ。

背後でヒューッと品のない口笛の音が響いたが、そんなことはどうだっていい。

今は、この唇を離したくない。

しっかりと遼子を抱きしめる腕に力を込めて抱き上げる。

遼子も抱きしめ返してきて、口付けにも呼応する。

向きを変え、息継ぎだけする間を与えてやりながら貪るように確かめ合う。

言葉よりも、確かなものだ。

「お~い、お二人さん、もうそろそろいいですかねぇ。」

どれほどの時間が経ったかは分からないが、しびれをきらした宗眞が、階段に腰掛けた状態で声をかけてきた。

シスカはそれでようやく遼子の唇を解放した。
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