甘い唇は何を囁くか
宗眞の言ったことを頭の中で反芻しながら、遼子は青褪めていた。

さっき、シスカから聞いたこともまだ、受け入れられていない自分がいるのに―。

つまり自分がとるべき行動はふたつにひとつってことだ。

ひとつめは、シスカのことを忘れてしまうことも覚悟して、シスカと結ばれる。

ふたつめは、宗眞と・・・して、シスカと同じヴァンパイアになる。

きっと、シスカのことを忘れて日本に帰ることなんかできない。

日本にいるお母さんとお父さん・・・それに友達とかもみんなびっくりするだろうけど、手続き関係はきっと何とでもなるだろうし・・・。

だから―。

ふたつの中から、選ぶしかない。

「遼子―。」

「・・・そんな不安そうにしないで。」

遼子は思わずそう答えて、シスカの頬に手のひらをそわした。

この人と生きていく。

絶対に、それは、それだけは誓いたい。

だったら、だったらきっと取るべき行動はひとつなんだ。

けど―。

「まぁ、あんたたちにまかせるよ。どっちでも好きな方を選びなよ。」

宗眞はそう言って立ち上がると、背を向けた。

黒い髪に、赤い瞳、ふらふらと風のようでとりとめのない空気みたいな人だけど、さっきの話を聞いた限りだと、きっと色々あったんだろう。

私のために、不老を失っても良いって―、言ってくれてるわけだし…。

「急がなくて良いよ。」

シスカはそう言って微笑んだ。

でも、困ったみたいに眉間に微かに皺が寄ってるの。

きっと自分でも気付いていないんだろう。
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