甘い唇は何を囁くか
私だって複雑なのよ。

だって、好きでもない人とエッチしないといけないのよ?

そのうえで、噛まれて、そんで死にそうな目に合うのも分かってるわけ。

宗眞のことを嫌いになるってのは・・・まぁ悪いけど良いとして、問題はやっぱり・・・。

宗眞はくるりと振り返ってにんまりと意地悪げに笑って言った。

「ヤルんなら、良い場所知ってるから安心しろよ。」

「バカ言わないでよ!」

誰があなたなんかと―、って言葉を口にすることができなかった。

そういうこともありうるわけだ。

そりゃ、最初・・・この人のこともカッコいいと思った自分はいましたよ。

シスカにこんなに心が奪われなければ・・・そういうこともあったかもしれない。

でも―。

でももう―。

ほしいのは・・・。

宗眞から、ゆっくりと腕の中にいる人に視線を移す。

宗眞が悪態をつきながら路地に消えていくのが見えたけど、そんなのもうどうだっていい。

見て。

この神様が作り出したみたいな造形。

鼻筋も、頬の骨格も眉も瞳も・・・。

唇も―。

そっと顔を下ろしてシスカの唇へと導いていく。

シスカは、私からキスを求めているんだと気付いてびっくりしたみたいだった。

けど、すぐに応えてキスしやすいように顔をこちらに向けてくれる。

それから、ソフトに唇を合わせる。

小鳥がついばむように、何度か繰り返す。

月の中に響く唇の音に、じれったさを感じて、うっすらと唇を開く。

それからもう一度・・・。

愛してる―。

愛してるって、こんなに通じ合う。

キスがこんなに愛しいものだなんて、知らなかった。

「は…、シス…か…んっ。」

私がヴァンパイアじゃなくっても、この唇はシスカのことを食べてしまえると思う。

噛み付きたくなるような衝動を感じているのは、きっと私だけじゃない。

見つめ合って、蕩けたようにくにゃくにゃになった身体をシスカにしっかりと支えてもらいながら、がぶがぶとシスカを食べる。

「遼子―、すご…い。」

すごい、なんて…言われてようやく羞恥心を感じることができたけど、でも止められない。

―欲しいんだもん。
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