甘い唇は何を囁くか
遼子が風呂から出てきたら、冷め切らないうちにもう1回くらいできるかな。

おっさんの言い置いてった台詞なんざ守るつもりは毛頭なくて、一応服は着たけれどソファーに座って煙草を吸いつつ酒を飲みながら遼子を待っていた。

小一時間ほどして、風呂から出て来た遼子は、バスタオル一枚を身体に巻いて、濡れ髪から滴る水滴もそのままの格好だった。

何だよ、まだまだヤル気なんじゃないの?

って、ワクワクさせられたのも束の間、あのオッサンに負けず劣らない睨みをきかしてベッドルームへと消えた。

それだけで、服を着に行ったんだと分かった。

つまんねぇ。

結局、もう終わりってことか。

毒が体中に回りきるまでに、かかる時間は早くても3日。

その間、まだまだ存分に愉しもうと思ってたのに残念。

ま、他の女を喰いに行けば良いんだしいいけどさ。

ベッドルームから出て来た遼子は服をしっかりと着込んでコートまで羽織っている。

「何だ、帰んの?」

遼子は、俯いてそれからゆっくりと顔を上げた。

「どれくらいかかるの?」

「へ?」

「ヴァンパイアになるまでにかかる時間、あとどれくらい?」

「あ、そうだな。ま、早くて3日・・・1週間みとけば間違いないかな。」

「・・・そう。」

心底残念そうに呟いて、俺を見遣った。

「ホテルに帰るから、3日後に来て。」

なるほど、もう顔も見ていたくないってか。

「つまんねぇ意地はっちゃって。超感じちゃったから罪悪感でも感じてんの?」

遼子はぎらりと俺を睨んで言った。

「そういうこと言わないで。」

「そういうことって、どういうこと?」

にまにまと笑って問う。

こいつのこういう虚勢はるところ、可愛いって感じる。

「俺とSEXして何回もイカされたこととか、身体が痙攣するくらい気持ちよかったこととか、そういうこと?」

遼子は、ぐっとこぶしを握り締めて俯いた。



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