甘い唇は何を囁くか
結局、遼子がホテルを出たのは初日、夕方になってからだった。

カジュアルドレッシーをテーマにベビーピンクのフレアスカートと白いブラウス、それからラビットファーのボレロに同じブランドのショートブーツを履いてみた。

髪は縦ロールに巻いて、バックの中には必要最低限のお金だけ入れた財布とハンカチ、ティッシュ。あとデジカメと携帯電話。

仕上げにこっちに来る前に買った「ROSEROSE」って薔薇専門店の薔薇の香水をつけて出来上がり。

お洒落して、今日は記念すべき一日目なわけだから、
本で見た三ツ星レストランで優雅なディナーというわけだ。

写真を沢山撮ろうと思いを馳せながらホテルを出て、大きな通りを歩いていく。

石で出来た道にかわいい建物。神戸の異人館を彷彿-しないでもない。

でも、何もかもが素敵。

建造物は大体石造り。

これが、日本との違いなんだろうな。そういや、日本は大体木製だもんね。

レストランにたどり着くまでに目に入ったクレープやさんらしきお店で買った薄い生地にクリームチーズを削ったものをやまほど包んだもの、なんていう名前なのかは分からないままにしておいたけどそれをかじりながらふらふらと歩いて行く。

こんな所で生きていけたら、そりゃ心もおっきくなれそうよね。

緑のツタが這う石造りの壁にもたれかかって熱い口付けを交わす恋人とかも、この国だとさまになっている。

ドンッ

遼子はハッとして顔を上げた。

「すみませんっ!」

余所見をしていたばかりに、ぶつかったその男の人は…。

奇跡みたいに…。

―イケメンだった。
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