甘い唇は何を囁くか
こいつが・・・宗眞が、私を煽るのは私を好きだからなんじゃない。

私に気があるからでも、私に興味があるから・・・でもない。

別に、私じゃなくてもこいつは誰でもいい。

それなのに・・・抱かれている時に、不覚にも気がついてしまった。

何故なのか、分からない・・・。

けど、宗眞が私にかぶさりながら、その目に映っているのは・・・別の女の人の姿なんだと思ったのだ。

きっと、自分でも無意識に、どの女の人を抱く時でも、重ねているに違いない。

「・・・運命の人・・・。」

「へ?」

遼子が、呟いた言葉の意味を理解できなくて、宗眞が目の前で首をかしげる。

きっと、・・・そうだ。

〈殺した〉って台詞が、頭の中に浮かんで、宗眞を見遣った。

「何だよ。」

それが、どんな人で、どんな別れ方をしたのか知らない・・・。

殺したってのが、本当なら、宗眞は・・・運命の人に手をかけたってことになる。

けど、抱いている女の人に、その人を重ねるくらい、今も心に残っている・・・囚われてるのは確かだ。

目の前の宗眞は、くそったれで、シスカや私に対してちょっとした後ろ暗さとか、そういうのも一切ない。

女の人なんて、ただの食べ物で、だから、私にもああやって気軽に声をかけてきたんだろうけど―。

遼子は再び俯いて、そして顔を上げると言った。

「じゃあね。」

「あ、おい!」

背を向けると宗眞の声が私を呼び止めた。

けど、私は立ち止まらずに足早に部屋を出た。

宗眞を可哀そうだなんて、思わない。

思いたくない。

そんな自分と戦う為に―。
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