甘い唇は何を囁くか
細胞が千々に千切れてバラバラにされてしまいそうな感覚。

遼子が魘される光景の前に自分が、ヴァンプになる前のことを思い出す。

自分もそうだった。

幻覚さえも見えてくる。

愛しい女の存在を、その時には深く胸に刻んで・・・。

宗眞は、ベッドサイドの小さなライトを点けて、ベッドに手をかけた。

ギシリ

軋んだベッドの音にも、遼子は気がつかない。

ここに宗眞がいることを知っているのか・・・それとも知らないのか・・・。

もうすぐ、全てを忘れる。

「時間だぞ・・・?」

暗がりの中に燈る小さな明かりが、遼子の表情を映し出す。

「し、ゅう・・・ま・・・?」

「そう、俺。来たけど?」

にまっと笑って言う。

「待ってたか?」

遼子ははくはくと口を動かして、気だるさに悶えた。

「も、いい・・・おねが・・・はや・・・。」

「お前が俺にねだるとは、何かそそられるね。」

「そ、いうのは、いいか・・・ら。」

シーツを掴んで、熱を帯びた目で宗眞を見返す。

なるほど、人間の死に際というのは、かくも美しいものか。

毒に冒され、死に逝く人の姿になど興味はなく、一度身体を交え血を啜った女のもとへ二度訪れることなど、一度とてなかったから、こんな女の姿を見たことはなかったのだが・・・。

それに、性欲を掻き立てられる自分がいる。





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