甘い唇は何を囁くか
こうして、遼子の顔を見れるのも、これが最後かと思ったら、やっぱり少しは寂しいもんだな。

そう思って、遼子の額を撫でた。

「遼子に触れるな。」

その声に、宗眞は嘲笑に似た笑みを浮かべた。

いることは分かっていた。

今、この瞬間にこいつが此処に来ないわけがない。

「触れないと、噛めないだろ。」

そう言って振り返る。

壁に背を預ける長身の男がいる。

シスカだ。

シスカは腕を組み、目を閉じたまま命じるように言った。

「早く終わらせろ。」

「はいはい。」

遼子の額をもう一度撫でて、宗眞はその首筋に唇を落とした。

「遼子、さよならだ。」

そう言い置いて、意識が混濁した遼子の白い肌に牙を刺した。
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