甘い唇は何を囁くか
時間が、止まった。

聞こえなくなった心臓の音。

ううん、鼓動はしている。

けど、何て言うんだろう。

そんなものは、もう時間を刻む重要な臓器ではない。

そう、感じる。

さっきまでの激しい苦痛が嘘みたいに、消えた。

「ううん・・・」

唸って目蓋を擦り、顔を上げた。

「ここは・・・」

此処は、どこ・・・だったっけ・・・。

ああ、そうだ。

私が泊まってるホテル。

そうだった。

それから・・・。

ベッドに手をかけて、身体を起こす。

何だって、ベッドの上じゃなくて、こんな所で寝てたんだろう。

苦しかった・・・からかな。

電気、電気つけなきゃ、何も見えない。

こんな小さなライトじゃ。

そこまで思って、ハッとした。

誰かがいる。

「誰・・・?」

誰って、言って何かが頭の中をよぎった。

誰か、いたんじゃなかった?

遼子がこうなる前。

この苦痛の渦に落ちるその前に・・誰か・・・。

「誰なの?」

もう一度、おそるおそる呟くように、問いかけた。
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