甘い唇は何を囁くか
第1章 「出逢い」
その美しい女の名はユリーカといった。

男たちはみな、何とか頭ひとつ抜きん出ようと
試行錯誤し彼女に纏わりつく。

だが、何を贈ってもどんな物にも彼女は靡かず
仕舞いに飛び出す脅しにも屈しない。

まるで高級な猫を彷彿させる。

いや、爪を隠した獰猛な獣であろうか―。

なぜこうも気高くいられるのだろうか 本当に怖いものなどないと言うのだろうか。

どれほど考えても答えは見出せない。

その小鳥の囀りのような声で囁く言葉は、酒を煽る姿までも甘く色付いて見せる。

シスカはもう夢中だった。

それから毎夜、その酒場へ出向き
ユリーカに群がる男たちの一員となって彼女の一瞬の視線を奪い合った。

耳をくすぐる、彼女の笑い声を聞けば それだけでもう十分すぎるほどの興奮を覚えた。

彼女が欲しい。

金で買えぬものなど、ないはずだった。

あまたの敵(男)どもを蹴散らして、
ユリーカに千本の花を贈り屋敷も買えるほど高価な宝石を贈り、愛の言葉を囁いた。

こちらを見て欲しい。

自分を愛して欲しい―。

そんな日々を半年も続けたある夜のことだった。

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