甘い唇は何を囁くか
漆黒のスーツで身を包み、見上げると月の輝きを思わせる長い銀色の髪に、碧色の瞳…。

妖精の王子様と言っても信じてしまいそう。

モデルさん?

え、もしかして俳優さん…?

遼子が呆然とその整った顔を見上げていると男もじっと遼子を見下ろしてぽつりと呟いた。

「チャイナか…。」

その声は、まるでこの海みたいに澄み切った…透明感のある…素敵な声で…あ、だけどチャイナ…?今、中国人か?みたいなことを言ったの…?この人。

やはり、日本人はみんな中国人に見えるのだろうか。

まぁ、見かけはかなり似てるものね。

「い、いえ…ノーノー、えっと、ジャパニーズ…あ、いやジャポネ…?」

違う…?かな…。

あ、そうだ、辞書辞書!

鞄を見遣ってそういえば辞書は鞄の中に入れて来なかったことを思い出した。

もう、やだ私ったら!

男の人は遼子が目の前であたふたとうろたえるのをじっと見下ろしている。

何だろう…私の顔、何かついてる?

「日本人か…。」

と、思い切り日本語で話されて、遼子は目を瞬かせた。

「お前の国の言葉なら話せる。」

「は…。」

はぁ、と数回小さく、ほとんど何の意味もなく頷いた。

「日本人の子供が、こんな時間に一人でうろうろするものではない。」

至って冷静に、男の人はそう言うと遼子の隣を通り過ぎた。

っていうか、子供って…。

確かに遼子の成長は155cmで世間的に見れば身長は短いものかもしれない。

ただでさえ、この国には背の高い人たちが多いのは事実だ。

けど、こんなドレッシーめな格好しているののに…子供って…。

子供って―。



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