甘い唇は何を囁くか
誰なの・・・?

震える声が、これまでと変わりなくこの耳に届いた。

甘く誘う、愛しい女の声。

誰に抱かれ、その身を同胞へ変えようとも、この想いに代わりがないことを今更ながらに実感する。

「・・・遼子。」

ああ、この数日の間、お前に逢えなかった時間のどれほど長く苦しかったことか。

それでも、この飢えた身を埋めるために血を啜る行為の、それに、どれほど恥辱を感じたか。

お前が欲しい。

お前しかいらない。

それなのに、このあさましい身を、どれほど俺は呪ったか。

「誰・・・?」

ライトの明かりの中に入るよう、シスカは一歩前へ踏み出した。

駆け寄りたい。

本当は、すぐにその傍に行き、お前を抱きしめたい。

だが、何かどこか怖くて、もしも万が一お前に拒絶されたら―。

そう思うと、身が強張る。

遼子の双眸が俺を捉えた。

その瞬間、少し息を呑んだ。

その目が、少し茶色がかった綺麗な瞳をしていたはずの目が、深紅に染まっている。

・・・・何故?

それは、まさに宗眞の目の色と同じだった。
< 201 / 280 >

この作品をシェア

pagetop