甘い唇は何を囁くか
遼子が



何を言ったのか・・・

理解できなかった。

ただ、背後で宗眞が、とぼけた声で「は?」と呟いたのが分かった。

「・・・何だって?」

引きつった顔になったと思う。

遼子の頬に触れようと、恐々手を差し出す。

遼子が

俺を忘れるなんて、あるはずがない。

何の為に―。

何のために、こんな薄汚い男に遼子を噛ませたと・・・。

指先が触れる直前、遼子はすっと身を引いた。

「あの・・・、やめてください。」

ズキン

深く、胸の奥が痛んだ。

「あっは!」

目蓋を下ろして、その声の方を見向くと同時に薄っすらと目を開ける。

「マジか!くっく!何でだ、遼子?」

腹をかかえて笑うその男に、激しい殺意を覚えた。

「お前、何かしたのか!」

牙を光らせて問い、立ち上がる。

「は?」

「何故、遼子が俺を忘れる!なぜだ!」

つかつかと男に歩み寄って吼える。

遼子

遼子

何の為に、この数日の間、お前に逢わずにいたと思う?

お前を、苦しんでいるお前でも、かまわない。

そのままお前を喰らってしまいそうだった。

そんな自分を抑え切れない自信があったからだ。

宗眞の喉下を掴み、ぐぐっと持ち上げる。

「遼子に、遼子に何をした!」

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