甘い唇は何を囁くか
何てこった。

何だって、遼子はおっさんの事を忘れてんだ?

俺のことを覚えてないのは分かる。

毒を入れたのも、毒を消して人間に変えたのもこの俺なのだから。

だが、おっさんは何もしてない。

こいつを抱くのだって、毒の消化を恐れてしなかった。

恐らく、この数日他の女の血さえろくに啜ってない。

この青褪めた顔と、さっきの抜けちまったみたいな力がそれを物語っているから。

これは・・・あれか?

遼子の心の問題って奴か・・・?

だとしたら、・・・笑える。

遼子は、このおっさんのことをいっそ忘れたいって思うほど、悩んでたってことだ。

愛だの運命だのと、のたまる安っぽい恋愛感情じゃ、こんな奇跡は起こせない。

目の前で、がっくりと肩を落とすシスカを見遣った。
< 206 / 280 >

この作品をシェア

pagetop