甘い唇は何を囁くか
そろそろ、身体の違和感に、血への渇望が混じる頃だ。

シスカはサングラス越しに大通りを歩いて行く遼子の姿を追った。

自分もそうだったように、遼子も感じているだろう。

何か、言い知れぬ恐怖に似た飢餓感を・・・。

「なぁ、声かけねぇの?」

シスカの背後からぬすっと顔を出した宗眞が言う。

シスカは舌を打って答えた。

「だから、何故お前は俺に付きまとう?」

あの夜から以降、宗眞はずっと着かず離れずでシスカと共に行動している。

いくら殺すと脅しても宗眞はまったくびくりともしない。

殺してしまおうかとも思ったが、なぜか殺すことを躊躇ってしまい今に至る。

宗眞はにまっと笑って言った。

「またまたぁ、俺のこと嫌いじゃないくせに。」

・・・

確かに、そうなのかもしれない。

だが、遼子のことを思えばこいつを殺してしまうべきなのは分かっている。

だが、同胞として、こいつのことは決して嫌いではない。

自分と似ている―、からかもしれない・・・。

シスカはぶんと首を振って答えた。

「いや、お前のことなどどうとも思っていない。」
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