甘い唇は何を囁くか
何、これ・・・。

すっごい甘い香り・・・。

言いようのない、例えようのない・・・。

呆然とその香りを辿っていると、見たことのある顔の男の人がずんずんと近付いてくることに気がついた。

その人は目の前で立ち尽くすと、私を見下ろして俯いた。

銀の髪に碧の瞳。

この素敵な人のことを忘れるわけがない。

「あ・・・えっと・・・?」

何とか正気を取り戻して首を傾げた。

ふらふらする。

この眩暈に似た感覚は、貧血の時に似ているのかもしれない。

ふらつく私を見て、彼は目にも留まらぬ早業で私の腰を支えた。

「・・・大丈夫か?」

私は小さく頷いてはいととりあえず答えた。

う・・・わ・・・

遼子は思わず眉をしかめた。

これまでになかったほどの強烈な香りが、鼻腔をくすぐる。

何・・・これ・・・。

遼子はうっとりとして、彼の顔を見つめた。

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