甘い唇は何を囁くか
どうしたというのだろう。

まるで金縛りにあったように動かなくなり、そして今にも泣き出しそうに唇を引き結んでいる。

サングラスをかけているのに、その目には涙さえ見えたような気がした。

私は、何か忘れているのだろうか―?

もしかして、この人のことを・・・?

ズキン

「つっ・・・。」

こめかみが痛んで、遼子は小さく悲鳴をあげて蹲った。

「大丈夫か?」

「う、うん・・・。」

「頭が痛むのか?」

遼子は頷いて答えた。

そうか・・・。

シスカは蹲った遼子の小さな身体を見下ろした。

失った記憶が、遼子の身体を攻撃しているのだろう。

シスカは無言のまま、遼子を軽く抱き上げた。

突然のことに、遼子は素っ頓狂な声を上げ言った。

「ひゃっ、あ、あの、下ろしてください!」

サングラス越しにその愛しい瞳を見下ろして答える。

「無理するな。」

それに―。

シスカはくすと含み笑った。

まるで、あの時のようじゃないか・・・。

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