甘い唇は何を囁くか
わわわ・・・

遼子は頭上に見える美しい顔立ちから目を逸らした。

何故、こんなことに・・・?

そう思ったけれど、言葉が出て来ない。

「あ、あの・・・あのっ・・・。」

そう言うのが精一杯だった。

シスカは何も言わないで、サングラス越しに穏やかで優しい瞳で見下ろしてくる。

ドキン

心臓がはねた。

ズキン

同時に頭がすごく痛んだ。

思い出さなきゃ。

何を・・・?

忘れちゃ駄目だ。

何が・・・?

困惑したまま、シスカを見上げていると、大通りの、大勢が行き交う人の中だというのに、というよりも、この人のこと、何も分かってないのに・・・。

その唇が、自分の口を塞いだ。
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