甘い唇は何を囁くか
安物の酒は、ヴァンパイアになった今でも飲む気にはなれない。

グラスの中には強めのジンが入っていて、傾けると溶けかけた氷が舌先に当たった。

賑やかな音楽、騒がしいほどの話し声、今の自分はそのどれもがそれほど嫌いではない。

それに片隅で、こうしてグラスを傾けているだけで、渇いた唇を濡らす相手も容易く見つかる。

「あのぉ」

ほら、とシスカは軽く香りを嗅いだ。

果実のような甘い香り。

雌の匂いだ。
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