甘い唇は何を囁くか
喰い終わった女をホテルに残して、シスカは再び繁華街に戻った。

何故か、チクチクと舌先がしびれる。

もの足りなさに、喉元を摩った。

どこまでも聞こえる耳に、微かな女の悲鳴が届いたのは、そんな時だった。

ぴくりと身体を揺らして足を止める。

その方角に視線を流すと、二人の男が小さな女を囲んでいるのが分かった。

「…あれは…。」

その小さな女には見覚えがあった。

今日のディナーをあれに決めた要因となった女の姿―。

絡まれているのか―。

悲鳴をあげようとしたその唇を大きな手のひらで塞がれて、路地裏に連れ込まれていく。

人間の男も、食事にありつこうというわけか…。

紳士であった人間の頃にも、ああいう者がいたことを思い出す。

だが、今となっては関係ない。

あんな小娘がどうなろうと―。

「だから、言ったんだ。こんな時間にふらつくなと。」

呟いて、ため息交じりに歩き出す。

知った事か。

喰い散らかされて、思い知れば良い。
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