甘い唇は何を囁くか
もう、二人を抑えるものは何もない。

しとどに雨に濡れそぼり、
煉瓦の壁を互いに叩きつけるように交じり合った。

銀の髪に指先を通し、愛を語らう代わりに
口付けを交わし、闇の中に溶け合うことを願いながら。

これほどの情熱が自分の内のどこに秘められていたのかと、
シスカは思った。

金で買えぬものはなく、愛もどの人の心も
自分の手の中にあると思っていたのだ。

だが、このイカズチに打たれた今、もう
以前の自分に戻ることなどできない。

ユリーカはシスカの魂なのだ。

シスカの身体の中で、こんなにも熱く呼応しているのがその証―。

もう二度と離れることはないだろう。

何を捨てても―、この命さえも惜しくはない。

「許して―。」

交じり合ったままシスカはユリーカを自分の屋敷に招き入れた。

そして、ベッドの中で愛を交し合った後、ユリーカは苦しみにもがくように、そう囁いた。

涙ぐんだその声に、シスカは困惑して問うた。

「何を謝る―?」

この幸福の時を得た今、罪を悔いねばならないことなどあるはずもないのに―。

「私は、貴方を抱いてはいけなかった―。それだけは…駄目だったのに―。」

シスカは微笑んで答えた。

「抱いたのは俺だ。ユリーカ、君は何も悪くない。」

ユリーカは身体を起こし、いいえと激しく首を振った。

「私は―、許されない罪を―犯してしまった。」

「君とこうしている為なら、俺は何も怖くはないよ。」

透き通るような白い肌に、指先を這わす。

しっとりとしていて、それでいて滑らかな彫刻のような美しさ。

「ユリーカ…愛してる。」

ユリーカは、ポロポロと涙を流してシスカの身体に抱きついた。

「貴方を愛してる―。もう、戻れないのね…。」

覚悟を決めたように、耳元でそう囁いた。






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