甘い唇は何を囁くか
次、逢ったら愚かな女の象徴みたいに、すぐさま連絡先とか聞いてしまいそうな気がする。

「…いやいや、それはないから!」

そうよ、次はない。

あんなイケメン一回見れただけで、それだけで十分奇跡なのに二回も逢ったんだよ?

それも、映画みたいな偶然で、最高すぎるシチュエーションで。

どう考えてもヒーローでしょ。

ちょっと口は悪くて、つっけんどんとしていて、愛想がないところも萌え要素含んでるでしょ。

そのうえ銀髪碧眼で、背はすらっと高いのに筋肉質でサングラスがすごく似合ってて、そりゃあんなかっこ良ければ、映画ならあそこから恋が始まるパターンでしょ。

どう考えたって―。

再びハッと我に返り、いやいやと首を振る。

「ないっ、ないからだからっ!」

あれは、現実。

映画じゃないし、そんな展開にはならない。

「あんたさぁ、何ひとり悶絶してんの?」

思わぬ日本語に、遼子は驚いて振り返った。

ジーンズにTシャツ姿でサングラスをかけた黒髪の男の人が、カウチから立ち上がりこちらを見ている。

あの人ほどではないけれど、なかなかの長身でサングラスも似合っている。

「さっきから、うるさいんだけど?」

そう言いながら、サングラスを外す。

アッと思った。

日本人かと思っていたから、驚いて口がちょっと開いたままになる。

その瞳の色―、びっくりしてしまうほど、真っ赤。

深紅っていうのか、薔薇の花を彷彿させる。

遼子がその瞳の色に驚いている事は、言葉がなくても分かったのかもしれない。

男はふんと鼻を鳴らして微笑すると、首を小さく傾げた。

「もしも~し?」

はたと我に返り、初対面の男の人の前でする顔じゃなかったことを思い出す。

「あ、す、すみません。ちょっと色々考え事があって―。」

「ふぅん?ま、座れば。」

まるで自分の家のカウチだというみたいに顎をしゃくって言う。

あ、どうもなんて日本人らしくおじぎを返し腰掛けた。

「考え事って?」

そう言って、足を組む。

外人なのかしら、このコンパスの長さ…日本人離れはしてるけど…。

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