甘い唇は何を囁くか
それにしても、どこに行こう…。

確か、この近くに公園があったような気がするけど。

そこまで考えて自分が上着を着ていないことに気がついた。

しまった…いくら何でもこのままじゃ寒いかも…。

どうしよう、取りに戻ろうかな。

そう思って恐る恐る、振り返った。

と、ギョッとして後ずさる。

振り返ると、すぐそこにさっきのあの男がいたからだ。

「何でいるのよ!」

と、思わず怒鳴る。

男は遼子をちろりと見下ろして再び歩き始めながら言った。

「別にぃ?俺もこっちに用事があっただけですけど?」

どういうこと?

とりあえず隣に並んで遼子も歩き出す。

「あんたも用事があるんだろ?」

「も、もちろんよ。」

「ふぅん?」

「何よ。何か言いたいの?」

思わず唇を尖らせて男を睨むと、含みのある笑い方をして、男はくっくと喉を鳴らす。

「バレッバレだろ。」

「何よ、わざわざ嫌味を言いに来たってわけ?あなたも暇なのね!」

「そうなんだよ、実は今日のデートキャンセルされて時間が空いちゃったわけ。」

まさか認められると思ってなかったから思わず間をあけてしまう。

「せっかくの機会だし、一緒に夕飯でも食う?」

そう言って足を止めるとサングラス越しに遼子を見下ろした。

ドキッとして意識せずとも、顔が熱くなってしまう。

ヤバイ、見た目に惑わされるな、私の心臓!

「な、何で私が!」

「んー何でかって…まぁ純粋に、あんたに興味があるから。」

遼子は仁王立ちになって言った。

「はぁ?」

何言っちゃってんの、この人!



< 52 / 280 >

この作品をシェア

pagetop