甘い唇は何を囁くか
「お言葉ですけど、あなたさっきは私に悪態ついてたじゃないですか。全く言葉に真実味を感じられませんが?」

男はへらりと笑って答える。

「そこは、ほら俺ってシャイだから。心にもないこと言っちゃっただけじゃん。ごめんね?」

馬鹿にするにもほどがある。

そんなに私って軽そうに見えるってわけ?

「あなたと一緒に食事するなんてありえませんから。ごきげんよう、さようなら。」

ふいと顔を背けて、ホテルへの道筋を歩いて行く。

「おいおい待てって、ご馳走するし!な?」

「ナンパなら、他の旅行客をあたれば?」

「しっつれいだなぁ。ナンパじゃねぇし。」

どこが?

どう考えてもナンパでしょ?

しかも相当手馴れてるでしょ。

本当に、どうかしてた。

こんなのと、あの人はぜんぜん違う。

孤高の狼のようで、誰をも寄せ付けない気高いオーラがあって…。

「なぁって。」

腕を引っ張られて足を止める。

遼子は「離して」と怒鳴るために振り返った。
< 53 / 280 >

この作品をシェア

pagetop