甘い唇は何を囁くか
大体、勝手すぎるよね?!

遼子は、まだ乾いたままの唇をごしごしと手の甲で擦りながら独りごちた。

ちょっとイケメンだと思って油断したところがあったんだろうかー、にしたって、あのタイミングでキスしてくれとは思いもつかないはずだ。

(どうでもいいー)

あの人の呟いた台詞が頭から離れない。

…何よ、私が悪いわけ?

勝手に着いてきて、勝手にキスされて、勝手にフられるとかーーなくない?

まだ、告白もしてないし、てか、好きかどうかも未確認だし。

…何よ何よ!!

癒されに来た国で、何だって傷つかないといけないわけ?

遼子はじだんだを踏む気持ちで、エレベーターの扉を睨みつけた。

「もうっ、壊れてるんじゃないのっ?!」

いっそ、殴りかかりそうな勢いで怒鳴る。

このままで帰れるものかーー!

遼子はグラグラと燃え盛る怒りかモヤモヤか分からない感情にこぶしを握りしめた。

あの人に、今度会ったら、言ってやるわよ。

あなた何さまのつもり?ちょっとカッコいいからって、何でも許されると思ったら大間違いよ!

ってねー!
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