甘い唇は何を囁くか
シスカは、フゥと息を吐いた。

エレベーターホールで、何かもがいている女がいる。

もう、それだけで分かる。

「何をやってるんだ…?」

呆れ口調で呟いて、ゆっくりと歩み寄る。

やはり…どう見ても普通の人間の女だ。

それも、どちらかといえば、あまり食指の働かないタイプの女だ。

小柄で肉体美でもなく、まだ子供の匂いさえ感じる。

髪も、決して美しくはない。

背後に立つと、シスカはぼんやりと女を見下ろした。

こんな女、どこにでもいるではないかー。

それなのに…。

あの男が、こいつの唇を奪ったあの瞬間、なぜあんなにも怒りがこみ上げた…?

まるで…そうだ、あれではまるで…。

否!

どちらにしろ、こうすれば分かることだ。
< 62 / 280 >

この作品をシェア

pagetop