甘い唇は何を囁くか
まったくまったく、腹が立つったらない!

遼子は鼻息も荒くブツブツ言って、ようやく来たエレベーターに乗り込むべく開いた扉の前に立った。

中には綺麗な装飾が施されていて、正面には可愛いアーチの鏡がある。

乗り込んだ後、顔を正面に向けた遼子はまだ、気がつかなかった。

けれど、3階のボタンを押そうと振り返った時、驚いて思わず声を上げた。

「!!へっ?!な、な、何で…」

あ…!

驚いている間に扉が閉まり閉じ込められる。

すらりと長身で、がっしりしてるのに、げきカッコいい。

さっきの怒りの台詞を撤回せざるおえないのかもーー。

あ、いや、そんなことを考えている場合じゃない。

なんだってーここに…。

「あ、な、何か用…ですか?」

ごくん、と思わず生唾を飲み込んだ。

何も言わずに、ただ見つめられると、息がつまりそうになる。

何よぉ…何なのよぉ!!!

と、エレベーターが動き出すと同時に男は遼子に手を伸ばしてきた。

身じろいで手から逃れようと後ずさる。

けど、狭い箱の中だからすぐに壁においやられた。

何、何、何、何ぃ

慌てて、頭の整理がつかないまま、男の手が遼子の肩の上で壁にあたる音を聞いて、びくりと震えた。

何、何でーーー

遼子の疑問が口をつく前に、男の顔が近づいて来るのを感じた。
< 63 / 280 >

この作品をシェア

pagetop