甘い唇は何を囁くか
お前が欲しい、そう言われて、すぐに嫌と言うことができなかった。

できないまま、男は歩き出して言った。

「お前の部屋はどこだ」

駄目だ―。

このままじゃ、私、この人とヤっちゃう。

それでも良いかと思っている自分もいるのが事実。

もったいぶるつもりもないし、こんなイケメンとデきるんならめっけもんじゃないの?

って思う気持ちも実際あったりする。

私のことなんか、どうだって良いって言ったのに―。

どうして、そんなに私のことを欲しそうにするの…?

そう、問いたいのに、言葉が出てこない。

英語はおろか日本語まで忘れてしまったみたい。

でも、駄目。

絶対に駄目だ。

流されて、してしまってから、良い思い出にできるかどうか、まだ今は分からない。

それを決意できてからでも、遅くないはず―。

でも、こういうことは勢いだし。

ああ、頭の中で善と悪が戦ってる。

どうしよう。

遼子の躊躇いを解くように、男が再び唇を寄せてきた。

嫌だ、これ以上しちゃったら、もう拒めない―。

拒めなくなってしまう―。

分かっているのに、男の唇が寄せやすいように、薄く、唇を開いて待ってしまう…。

その、これまで感じた事のない、熱い「口付け」を…。
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