甘い唇は何を囁くか
「さて、冗談はさておき…。」

やっぱり、冗談だったんだ。

そりゃそうよね。

まったく、宗眞と話ていると自分のペースを乱されてずっとカッカとなっているような気がする。

「あいつの名前、聞いたのか?」

「…それなのよ。名前をさ、普通は名乗るもんじゃない?少なくとも、スキですとかなんとかさ、言うべきじゃない?なんなの…お前が欲しいとか言っといて…。」

「マジ、あのオッサンそんな甘い事言うんだ?」

遼子はハッとなって首を振った。

それでようやく、ついポロリと口に出してしまっていたことに気がついた。

「や、ちがくて…えっと何、そうじゃなくて…。」

「まぁまぁ、照れなくてもいいじゃん、あいつのこと、好きなんだろ?」



「好き…なのかな。よく、分からないのよね、それが。」

「何、小娘みたいなこと言ってんだよ。」

「…そうよねぇ。」

まったくもってそのとおりだと、遼子は深く頷いた。

もう、遼子は小娘と呼べる年齢ではないし、ある程度の恋愛も経験済だ。

「だったら、おどおどしてないでとりあえず食ってみりゃ良いじゃん。」

「…そういう、みもふたもない言い方しないでくれない…?」

自然と顔が赤くなり、額に汗がにじむ。

とうの宗眞は平然としているのに。

「だって、そうだろ?こっちにいられるのだって、いつまでもじゃないんだしさ。ヤれる時にヤっとかないと、次の機会なんて巡ってくるかどうか保証はないんだぜ?」

「もう!宗眞はさぁ、日本人じゃないわけ?」

日本人ならではのシャイさはどこにかなぐり捨ててしまったわけ?

「それにさ、その目って、コンタクト?」
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