甘い唇は何を囁くか
”俺と付き合う?”

そう言った宗眞は、不敵な笑みを浮かべている。

何を言っているのか理解できなかったのは一瞬だった。

すぐに自分に戻って、遼子は聞き返した。

「…なんで。」

宗眞はどう考えてもプレイボーイだ。

きっととっかえひっかえ女遊びを繰り返して、あちこちにガールフレンドがいるに違いない。

日本人、というよりも女慣れしたその態度や話し方は外国人そのものだ。

ハーフ、とかなのかもしれない。

以外にも冷静なのは、宗眞の本気が見えていないからかもしれない。

もしくは、自分にその気がないことが原因か、そのどちらかだ。

だとしたら、どうしてあの人とのことには、あんなにテンパルのか、その理由がひとつしかなくなりそうで想像にふたをする。

「あいつと付き合わないならいいじゃん。俺、あんたのこと気に入ったし。」

遼子は鼻から深く息を吐き出して肩を落とすと椅子に腰掛けた。

「そういう冗談はいいから。」

宗眞は確かにイケメンだ。

日本人離れした手足の長さに小さい顔で、きっと年齢も同じぐらいではないだろうか。

あの人は、遼子より少し年上に見える。

優しくて面白くて、一緒にいて楽しいのは確かに宗眞。

だけれど、あの人と一緒にいる時のような胸の苦しみは感じない。

「俺のも試してみてよ。」

「何を。」

宗眞はにんまりと微笑んで遼子に顔を近づけて答えた。

「俺も結構自信あるよ?」

そう言われて、ようやく分かった。

遼子は「何言ってんの!」と声を荒げた。
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