甘い唇は何を囁くか
第2章「自覚」
何日間か、高熱に魘されていた。

息も絶え絶えに、生死の際を彷徨ったほどに。

だが、その夜を境にシスカの病は不思議なほど、ケロリと改善した。

そうするとー、ある記憶がないことに気が付いた。

病が治れば一番に誰かに逢いたいと思っていた。

そのはずが、その姿を、その名を思い出せない。

ある酒場で…、毎夜のごとく逢瀬を重ね、いつしか惹かれ合い結ばれた…。

そんな、命をかけて愛した女がいたはずだ。

と、思うー。

否、夢か?

ーー分からない。

酒場の場所も分からず、女の髪色さえも思い出せないー。

やはり、夢か…。

そうだな、そうに決まっている。

夢を見ていたのか…。

幸せなーー夢を…。
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