七つ星 72時間の儚き思い
瑠奈 24歳


【19時】



開店と同時に客が続々と店内に入る。

「ハルちゃん6番テーブルお願いします」


爆音で薄暗い店内

煌びやかなドレスを着て

寂しげな笑顔を浮かべる


春の日差しのような暖かい人になりたくて

源氏名をハルにした


「こんばんわ、ハルです
お席よろしいですか?」

少し頬をいつもより赤く染め
恥ずかしげにニコリと笑う

「ハルちゃん~!飲もう飲もう!」

額を脂で光らせて
安っぽいスーツに身を固めた
50代ぐらいの親父の隣に座る

(ノーブランドか…楽勝だ)

親父の腕時計を見ながら
今から20分間落とすことだけに集中する。


初めて働いたキャバクラのNo、1が言ってた
安っぽい嬢に見られずに客を落とすには



【話に出過ぎない。出しゃばらない。

無駄なボディタッチはしない。

悲しげな笑顔2割、満面の笑顔8割

嫌でも客からアプローチしてくるから。】

頭の中でリピートをする



お酒をいれテーブルを片付けながら
適当に客の話に相づちを打つ

「ハルちゃんは動物何が好き?」

(ほら向こうからきた)

「私は動物は苦手なんです…
昔ペットが死んじゃって…」

(はいここで悲しげ2割!
少し目でも潤ましておくか)

「そうなんだ…なんかごめんね」


お姫様扱いするのは客の仕事だって
わかってる奴とわからない奴は
容易い返しですぐにわかる


「私こそごめんなさい!でも私犬が好きです!無邪気で必ずそばにいてくれるから安心出来るから!」

(ここで満面の笑顔8割!)

「僕も犬が好きなんだ!あ、うちに犬居るんだ!これ」

古い機種のガラケーを開いて
満面の笑みでこっちに差し出す

「!!!!…かっわいいいい♡お客様にそっくりで優しい目してて可愛い…///」

満面の笑みで客を見つめる

心のカウントダウンが聞こえる

(…3…2…1…落ちろ)


「そ、そんなことないよ…?ハルちゃんの方が可愛いよ…///ごめん、嫌じゃなかったら指名入れていいかな?」



(簡単、、、つまんないや)

両手を胸の前に合わせて

「いいの?」

上目遣いで客を見上げる

こくん

脂で光る頭が頷いた


「ありがとう!」
客の片手をギュッと両手で握り
「嬉しいなぁ」
小声でぼそっと言い放つ

あれから何時間飲んでるのかな…

中身のない会話に
ただ楽しくニコニコ笑う
酒がなくなれば

「今日はここまでにしよう?すごく楽しかったから…」
うるっとした瞳で相手を見たあと小声で耳元で囁けば

「もう少しだけいていいかな?」

簡単な駆け引き


(あと1時間で営業終わりか)


あまり好きじゃないお酒を
喉に流し込む


−ありがとうございました−

営業終わり、キャバ嬢になってから
やることは決まっている

今日きた客のデータを
ノートに記す
インプットしたくだらない会話を
頭の中で鮮明に思い出す


「瑠奈ー!明日休みだしご飯行こう!」
唯一本名を知るエリカは学生時代からの友人で同じキャバクラでたまたま再会した。

(営業終わりなのに元気だなー)


【3時】

「うちら年明けたら25だよー?やばくね?」
エリカがだるそうにタバコを加えながら
携帯をいじりながらため息混じりにもらす

「あーそんなんなりますかー」とケラケラ笑う私を見上げて

「今日ご機嫌じゃん」

−お待たせしました−
やる気のない店員の声が頭に響く

「てかさ!瑠奈指名もらったハゲいるじゃん?」

(はげって)
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