甘美な蜜のプワゾン
右京は肩透かしを食らったように、呆れた顔をした。

「俺だけが一方的に名前を知ってるなんて、やっぱフェアじゃないと思うんだ」

突然何を言い出すのか、蘭にとってはどうでもいい事なのに、少年は悩ましげな表情を見せてくる。

そんな顔をするものだから、つい見惚れていた蘭は少年にテリトリー内への侵入を許してしまっていた。

「美上 太郎(みかみ たろう)」

甘さを含んだ低音を耳元で囁かれる。
頭の芯がしびれるようだ。

蘭は真っ赤な顔で耳を手でふさぎ、慌てて距離をとる。

太郎はそんな蘭に、緩やかに口の端を上げた。

(なっ……やっぱり確信犯なの? どっち……)

この美しい男は、まるで悪魔のように女を惑わす。

確信犯だろうが、何だろうが、どちらにせよ関わってはいけない人種なんだと痛感する。

「太郎いい加減にしろ。早く行くぞ」

右京は痺れを切らしたように、太郎の腕を引っ張った。
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