甘美な蜜のプワゾン
「蘭ちゃん」

太郎が蘭の名を呼ぶと、右京は蘭を鋭く睨んできた。

(何でそんなに睨まれなきゃいけないの……呼んだのはそっちなのよ)

蘭は眉をひそめる。

「気にしなくて大丈夫だから」

「へ?」

右京へと向いていた意識を突然断ち切られる。

「蘭ちゃんはどっから見ても、蘭ちゃんっていう女の子だからさ」

「……」

思わぬセリフに蘭は瞠目した。

「だって家がやくざ稼業だからって、蘭ちゃんがやくざってわけじゃないじゃん? 恋……ってのは正直よく分かんないし、普通の定義ってのも人それぞれだし、俺にはよく分かんない。でも蘭ちゃんっていう1人の女の子には違いないわけだからさ、あんなの気にする必要ないと俺は思うけど?」

今回はただ相手が悪かっただけ……。
そう言ってくれてるような気がした。

特別な事を言われたわけでない。
だけど、一番欲しかった言葉をサラッと言ってのけた太郎に、蘭の心は少し救われた。
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